「企業財務会計士」導入先送り

税理士法改正も気になりますが、こちらも気になります。

「企業財務会計士」導入先送り 就職浪人対策、振り出し 業界から反発根強日経新聞2011.04.21)


 政府が2013年に導入しようとしていた「企業財務会計士」制度は見送りで決着した。参院の財政金融委員会は21日、同資格の創設を柱とする公認会計士法改正案の規定を削除することを全会一致で決めた。公認会計士試験に合格しながら就職できない「就職浪人」対策は、振り出しに戻った。
 「会計士にも、税理士にもなれない。ニーズがないのに資格を作れば、一生懸命勉強する人がかわいそうではないか」。税理士資格を持つ自民党西田昌司参院議員はこう切り込んだ。他の野党議員も続き、財政金融委員会は新資格への集中砲火の様相を呈した。
 「各党各会派の意見を聞きながら、もう一度出直したい」。野党による修正動議の提出から、自見庄三郎金融相が“白旗”を上げるまで時間はかからなかった。
 約1年間の議論を経て金融庁公認会計士制度の最終案を発表したのは今年1月。土壇場で異例の削除に至った背景には、関連業界からの根強い反発があった。
 企業財務会計士は会計士のいわば前段階の資格だ。今は試験に合格しても2年間の実務経験を経ないと会計士になれない。新資格は合格時点で認め、企業に会計のプロとして就職しやすくなることを狙った。リーマン・ショック後に深刻化した会計士の就職難を解決するために、大塚耕平・前金融副大臣を中心に検討が始まった。
 関係者の間では当初から新資格への需要を疑問視する声が多かった。例えば、財務会計士は公認会計士と違い、監査証明業務はできない。
 加えて微妙な業際問題が根っこにある。地方で企業のコンサルティングなどを手掛ける税理士事務所にとって、新資格の保有者は競合相手になりうる。最終案発表後は、地元の税理士らが野党への働き掛けを加速。いったん賛成した日本公認会計士協会日本経団連も内部で消極論が勢いを増した。
 就職浪人の問題は変わらず横たわる。2010年は合格者約2000人のうち700人弱が就職できず、浪人比率が4割と過去最悪になった。国は11年の合格者枠を1500人に減らし、就職難をコントロールする方針。ただ、「会計の重要性が高まるのに、会計士の人材を減らし続けてよいのか」(金融庁幹部)というジレンマもある。
 2012年以降国際会計基準への対応が重要な局面を迎えるなか、各国は戦略的に会計人材を育てている。公認会計士の数は日本が約2万人に対して、米国は少なくとも35万人以上。すでに10万人以上の会計士を抱えるインドや中国なども、国際会計基準や英語に精通した会計専門家を増やし、海外インフラの受注増につなげているという。
 供給を絞って目先の就職浪人問題を解消しても、縮小均衡で人材の質が落ちれば元も子もない。会計のヒトの競争力をどう底上げするか。政府と業界は早晩、再び知恵が問われそうだ。